飼い喰い 三匹の豚とわたし

内澤さんの本を読んだのは抜群に面白かった「世界屠畜紀行」以来2冊目。
「世界屠畜紀行」では国内外の屠畜の現場を詳細にルポしてくれてましたが、
今回読んだ「飼い喰い 三匹の豚とわたし」はその前段階、つまり豚という生き物が生まれてから肉になるまでの一部始終を知りたい、ということで、千葉県に移住し廃屋を借りて3匹の豚を育て、つぶして食べるまでの体験記となっています。
いろんなトラブルやアクシデントに見舞われながらも、体当たりで3匹の豚を慈しみ育てる様子がユーモラスかつ冷静に綴られ、読み進むうちに何だかこっちまで伸、夢、秀と名付けられたこの豚たちに愛着が湧いてきました。

自ら育てた豚の肉を口に運び、噛み締めたときの内澤さんの思い、
「私の中に、胸に鼻をすりつけて甘えてきた三頭が現れた。
彼らと戯れたときの甘やかな気持ちがそのまま身体の中に沁み広がる。
…私のところに帰ってきてくれた…ずっと私の中に一緒にいてくれる」
という言葉にはぐっときました。
人間が動物を食べるために飼う、そしてその命で自らの命を養うことの意味をずっと考えてきた内澤さんならではの思い、なんでしょうか。

ところで自分なら自分で育てた動物をこうやって食べられるかな~と考えてみたけど、やっぱり何だかそれはできそうにないです。
肉は牛豚鶏馬羊etc.と、何でも好きで食べるんですけどね。
一般的な日本人の生活の中では、こういうことをリアルに考えること自体が難しいのかもしれません。遊牧民からは笑われそうですが、やっぱりこのへんは日本人のメンタリティなんでしょうか。まあメンタリティだけで片付けていい話でもないとは思うのですが。
それでもこの本を読んでからは、これまではただの食材としか思っていなかったパック入りの豚肉を見ても、そこに豚という生き物の命がしっかり宿っていたことを否応無しに感じてしまうようになりました。
ちなみに家畜の霊を鎮めるための「畜魂碑」を建てるのも、世界の屠畜場を取材してきた内澤さんの知る限りにおいても日本だけなんだそうです。

この本では自らの飼育記録の他にも、養豚の実際の作業現場や、様々な立場から見た畜産業界の実情などもルポされています。
かつてはどこの農家でも庭先で2,3頭の豚を飼って野菜くずや残飯で育てていたのが、現在では人里離れた大規模工場みたいな養豚場での飼育が主流で、口蹄疫などの感染症対策のために人の出入りも厳しく制限され、徹底的に衛生管理されているんだそうです。
そういえば私の実家の隣も兼業農家で豚を飼っていて、子供の頃は毎日夕方になるとその家の奥さんが豚に食べさせるために生ゴミをもらいに来てました。
ときたま豚の凄まじい叫び声も聞こえてきて、ああ今日は出荷の日か、とか思ったり。
あんなのどかな時代はもう遠くに過ぎ去ってしまったんですね。
他にも豚の交配や出産、去勢の生々しい現場の作業の様子や、ズーコンポストというハエの幼虫を使った糞尿処理リサイクルの話なんかも非常に面白かったです。

あと「どうしても一度試してみたかったエサ」の話、
ここで詳しくは書きませんが、切ないながらもどうにも可笑しくて笑ってしまいました。
それにしても内澤さんの興味の対象や発想力、行動力はほんとにすばらしく、こういう女性は心から素敵だな~と思います。
屠畜紀行の方も「もう一周! 世界屠畜紀行」ということで続編が進行中だそうで、こちらも今からとても楽しみです。

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