前回の続き)
バフチャルにとって、写真を撮るという行為はどんな意味があるのか?
自分が見ることのできない写真を撮り続けるのはなぜなのか?
感覚的に完全に理解するのは難しいかもしれませんが、
目を瞑ってプロセスを順を追って想像してみたり、
私の英語力ではなかなか難儀なのですが、
彼について書かれたものを読んでみたりしながら、あれこれ考えてみました。

ユジェンバフチャル5

目の見えない人も他の感覚が研ぎすまされて、
的確に回りの空間を把握している、という話を聞いたことがあります。
彼も撮影のときは、まず彼なりに空間を認識して、
更にサポートする人が今何がどう見えているのかを伝え、
彼はそれに従って、遠い視覚の記憶を頼りに心の中にイメージを作り上げ、
画面を想像してシャッターを切っているのだと推測します。

しかし、彼はそうして撮った写真を決して見ることができません。
撮影というプロセスの間には彼の前に確かに存在していた世界が、
プリントすると無意味なただのつるつるした紙になってしまうのです。
芸術新潮の解説には次のような言葉があります。
「写真を撮ることは…世界とのつながりをあえて断ち切ってしまう行為..」

彼は写真を撮ることはできても、作品とする写真を選ぶことができません。
それでどうするのかというと、バフチャルは友人やギャラリーの人に
写真を見てもらって、何がどう写っているか、彼らの感想などを聞き出し、
更に試行錯誤を重ねて撮影して最終的な写真を選ぶのだそうです。
つまり彼をサポートする人が彼の目になり、言葉や身ぶりなどを介在させて
バフチャルの頭の中にでき上がった写真を映し出しているということになります。

おそらく、我々が見ている画像とは違った画像が
作り手である彼の中にはイメージされているのかもしれません。
それは一体どんな画像なのだろう?
できればそれをテレパシーか何かで見てみたい衝動に駆られます。
ひょっとして脳科学が進んだらそんなことも可能になるのでしょうか?

ユジェンバフチャル6

バフチャルの言葉を私なりに解釈すると、
他者が現実に見ているもの、
それは彼にとっては幻影か面影のようなものになるわけですが、
それを通してだけ、彼は「視る」ことができる。
そしてそのようにして「視る」ことで彼は幸福を感じ、
彼の生の中にも視覚イメージが入ってくる、と語っています。
そう考えると、彼にとって写真を撮るということは
「世界とのつながりを断ち切ってしまう」のと同時に、やはり
世界とのつながりを回復するための行為ではないかとも思えてきます。

ユジェンバフチャル7

目の見える人間にとってはプリントされた写真は「記録」でもあり、
いつでもそれを見て記憶を再確認したり補強したり,
他の誰かと共有したりすることができますが、
バフチャルにとっては全て彼一人の中の「記憶」ということになります。
それはきっと移ろいやすく、壊れやすいイメージなのではないかと思います。

しかしよく考えてみると、この世に生きる誰もが
一生の間に見てきた光景を全て録画して記録しているわけではなく、
たとえそれが大切な忘れられない思い出の場面か何かであったとしても、
ほとんどの光景はやがてあやふやでぼんやりしたイメージの記憶として、
心の中に保管されているに過ぎないのかもしれません。
そう考えると、私たちにとっても「視る」という行為の行きつく先は、
バフチャルが他者の言葉を聞いて心に描いたイメージと同じく、
いずれ面影や幻影としてだけ存在していくのか、という気がしてきます。
今この瞬間見ているものを仮に現実だとすると、
私たちの見たものはすぐに過去の記憶の中の幻になっていく、
ということになるのでしょうか?

ユジェンバフチャル8

視覚と記憶についてあれこれ考えていると、
仏教の唯識のこと、更には人間の脳の情報処理のしくみは一体どうなってるんだろう?
といったことまで思いが巡ってきます。
バフチャル以外にも、世界には盲目の写真家として活動している人がいるそうです。
とにかく、この世界にはこのようにして成立している写真もあるのだということ、
そしてその作品がすばらしく魅力的で感動を与えてくれる、
という事実が私にはとても刺激的で、心を惹かれます。

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下記Websiteでユジェン・バフチャルさんの写真を多数見ることができます。
http://www.evgenbavcar.com/
http://www.zonezero.com/exposiciones/fotografos/bavcar/


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