忘れられた日本人

新聞や雑誌で本の特集などがあるとよく紹介されている本なので
以前から読みたかったのですが、遅まきながらやっと読んでみました。
民俗学の巨人といわれる著者が主に西日本の農村や山村、漁村などで
老人の昔語りを聞き取り、彼らがどのような環境の中でどのように
生きてきたかということが丁寧な筆致で綴られています。

感想を一言でいうと、新鮮な驚きに満ちたとても面白い本でした。
ただ単に昔の暮らしぶりや習俗をこの本で知って、
「へぇー、昔はこうだったんだ」という感慨を持つだけではなく、
それ以上に何と言うか、人が生きてきたことの重みを感じさせます。
決して歴史の表舞台に出ることはない人たちですが、
それでも彼ら彼女らひとりひとりの一生も一つの小さな歴史であり、
多くの無名の人たちの営みが続いてきて今日の日本という国が
形作られているということを主張しているように思えます。
歴史の中で文書や絵画などで形が残る文化もあれば、
口伝えや習俗の伝承だけではっきりとした形を残さない文化もあります。
そんな形のない文化の中にも大きな価値があると思うのですが、
それを丹念に拾って意味を見いだしていく
民俗学という学問も大したものだなと思いました。

それぞれの話がどれも話し上手な古老の昔語りを聞いているようで、
例えば「土佐源氏」は発表当時創作ではないかと疑われたこともあったそうですが、
それも無理もないかというくらい物語としてもとても面白いです。
ひょっとして映画にでもなってるのかなと思いちょっとググってみたら、
映画はないようですが俳優の坂本長利さんが1967年からずっと
この「土佐源氏」の一人芝居を続けていて、もう1100回を越えるとのこと。
演劇にはまるで疎いので全然知らなかったのですが、こちらも是非一度観てみたいものです。
ちなみにこの話には本当はもっと露骨な性描写のあるオリジナル版が
あったのですが、発禁処分になるのを怖れて割愛したという話も伝わっています。
他の話にも夜這いやエロ話などの話題がかなり出てくるのですが、
明治時代の農村が思いのほか性に対しておおらかで開放的だったということも意外でした。

著者の文章も飾りがなくゆったりした心地よいリズムで、
きっと何度か折に触れて読み返すことになる本だと思います。
もっと宮本常一を読んでみたくなったので、今「塩の道」を読んでるところです。

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コメント
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Re: No title
> デバラさん
コメントありがとうございます。
さあ、今も夜這いの習俗が残ってるとこってあるのかなあ。
研究してみますか?

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